医療ジャーナリスト 田辺功

メニューボタン

田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2016年12月7日

(183)不思議、驚き、証拠無視の司法

 犯罪の証拠がないのに逮捕・長期間拘留。日本のえん罪の構造がどうしてくり返されるのか、本当に不思議です。先日、医療関係の勉強会で、医師の救済運動をしている人たちの話をうかがって痛感しました。
 今年8月、東京都足立区の柳原病院の乳腺外科勤務の医師が、準強制わいせつ罪の疑いで逮捕されました。5月に手術を受けた女性が、直後の診察時に医師が健康な方の乳首をなめたりのわいせつ行為をしたと警察に通報しました。警察署員に医師は容疑を否認。病院も女性に接した職員から聞き取り調査をしました。”行為” の場所は4人部屋の病室で、看護師が出入りしており、手術後間もなくの時点で、女性は麻酔後の意識混乱で幻覚混じりの状態だったのではないか、とする報告書を、病院は警察に提出しました。
 ところが、驚いたことに千住警察署は医師を逮捕し、東京地検も9月に起訴しました。また、東京地裁は「証拠いんめつのおそれ」を理由に保釈を認めず、医師は3カ月以上拘留されたままになっています。
 犯罪を立証するには客観的な証拠が必要です。それなのに日本は自白さえあれば有罪にできるとの自白絶対主義が横行、拷問や長期拘留によるニセ自白強要が多くのえん罪を生みました。今回は証拠も自白もなく、疑わしい言い分だけで医師が逮捕されています。しかも乳腺外科医と乳房は非常に近い、自然な関係だけに一層、不気味です。
 警官には医師に対する特別な不満、偏見があるのか、民医連系の柳原病院への組織的な圧力か。理解できないのは、それを検事が追随し、裁判官が手助けしていることです。司法における正義や人権はどうなっているのでしょうか。
 電車内での痴漢行為、わいせつ行為で男性が逮捕され、女性の勘違い、人違い、失恋の腹いせだった、などと判明したいくつものえん罪事件を思い出します。えん罪被害者は多くを失いますが、加害者である警官、検事、時に裁判官は何のおとがめもなしです。やっぱり不可解ですし、怖いことです。

トップへ戻る