田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(178)でたらめすぎる精神保健指定医
「精神保健指定医」資格の不正取得にからんで厚生労働省は10月26日、89人の医師の資格取り消しを決めました。条件になっている症例報告をごまかして資格を不正に取った医師49人、と十分確認せずに証明の署名をした上司40人です。京都府立医大、愛知医大、兵庫医大など12都府県の病院の医師たちです。
重い精神障害の患者を強制的に入院させる判断ができるこの資格は厚生労働省が審査のうえで指定します。それには5年以上の実務経験と、治療を担当した入院患者8人の症例報告の提出が必要です。ところが、昨年、聖マリアンナ医大の医師の報告が以前の別の医師の報告とそっくりなことが発覚、厚生労働省が5年分を調べたところ、次々と引き写しが見つかり、同大学の不正取得者と指導医計23人が資格を取り消されました。それをきっかけに2009年以降分の全国調査の結果が今回の処分です。
前回で驚きずみですし、想像したより人数は少なかったとはいえ、困ったものです。日本の精神医療は世界ダントツの入院、しかもほとんど治療なしの隔離だけ、薬の不適切使用・乱用などレベルだけではなく、医師自身にも大きな問題があったことになります。
精神保健指定医の資格を得るには自分が診た患者の報告が不可欠です。8人は決して多くはないのですが、病気が違う患者なので何年かの蓄積が必要です。やり取りが目に浮かびます。
「お前も5年過ぎたからそろそろ資格を取らなきゃな」
「でも、私はまだ○○と××の患者は受け持ったことないんです」
「そんなもの、図書室にあるリポート、名前を変えて出せばいいんだ」
「そんなことしていいんですか」
「いいんだ。だれも他人のリポートなんか読まない。俺たちもみんなそうして取ったんだから」
医療は医師の「性善説」をもとに成り立っている、とよくいわれます。最初からごまかしでいい、となれば、患者を治さないでいつまでも入院させておくことも、医療費を少し水増しすることも気楽にできそうです。
日本の専門医制度は欧米諸国に比べると条件が甘く、実力が伴っていないのはよく知られています。8人の患者も実際は指導医が治療し、名目的な受け持ちだった新人の精神保健指定医に入院の可否が判断できるのでしょうか。心配です。