田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(177)横浜市の病院の不審死事件で思うこと
横浜市・大口病院の不審な中毒死事件が迷宮入りになりそうな雰囲気です。事件が明らかになった9月下旬、テレビなどからコメントを求められましたが、私は特別に聞いていることも知っていることもなかったので断りました。それから1カ月以上が経ちましたが、事件の大きな進展はないようです。病院現場のずさんさ、医療の意味、犯罪の目的やえん罪の可能性などいろんなことを考えさせられます。
事件は、死亡した高齢の男性患者の点滴袋に異常があると看護師が気づき、病院が警察に届けたことが始まりでした。別の男性患者と2人が点滴液に含まれた消毒薬成分で中毒死した疑いが持たれ、未使用の点滴液からも同じ成分が見つかりました。病院ではこの成分の消毒薬が使われています。
医療現場は常に人手不足で、医師も看護師も忙しく、余裕がありません。異常に気づいた看護師の注意力はたいしたものです。管理が厳しいはずの麻酔薬や麻薬などの紛失も珍しくなく、まして点滴液や消毒薬、一般薬は、職員に限らず、家族や面会者など出入りしていただれでも手に触れられそうです。
一番気になるのは、事件発覚前の2カ月で50人以上が亡くなっていた大口病院の死者数が、事件後激減したという話です。「安楽死病院だったのでは?」といったネット記事もありました。逆上ってはなかなか調べにくいことですが、中毒死は本当に2人だけだったのか、も大きな疑問です。
浮かんでいるのかいないのか、疑わしい職員を警察があわてて逮捕しないことはよいことだと思います。点滴から筋弛緩剤が見つかった2000年の仙台市・北陵クリニック事件では、有罪判決を受けた准看護師が今も無実を主張しています。状況から最も疑わしい人物を逮捕すればいいとの警察の判断は、死者が出やすい、複雑な医療現場では通用しない可能性が高く、犯罪を証明する直接的な証拠が必要不可欠だと思います。