田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(175)超高額薬価は緊急に引き下げを
10月6日に開かれた全国保険医団体連合会(保団連)の「マスコミ懇談会」での話題には本当に驚きました。超高額薬価で有名になった抗がん剤オプジーボの件です。悪性黒色腫や肺がんの治療薬ですが、体重60キロの患者の1年間の薬代が日本では約3460万円かかるのが、米国が約1394万円、英国では約780万円だというのです。しかも英国では国の機関がまだ「高すぎる」と指摘し、他の薬との比較から半値になりそうとか。そうなると、日本のオプジーボは英国の10倍の高値となります。
どうしてこんなことになるのでしょうか。調査、発表を担当した大阪保険医協会の小藪幹夫さんは「日本の薬価算定の過程が非公表で、まったくのブラックボックスになっている」と指摘しました。厚生労働省の裁量範囲が広く、メーカーの言い値が通っています。一方、英国には前述のように医療技術の費用対効果を検討する機関があり、薬価を抑えています。保団連は日本の売り上げ上位薬の2010年の患者購入価格の平均値を計算しましたが、英国を100とすると、フランス114、ドイツ168に対し、日本は222、米国は289でした。日本は同じ薬を英国の2倍の価格で使っているわけです。オプジーボの開発に関係した本庶佑・京大客員教授は「何で高くしたの、と厚生労働省の人に聞いたら、日本発の薬だから応援したい、と言っていた」と雑誌に書いているそうです。
厚生労働省のお役人も政治家も、その人たちが選んだ学識経験者も、保険制度のことなど全く考えていません。だから1人分1年間に3500万円もかかるという薬代を、だれも高すぎると思わなかったのでしょう。国民の払う保険金や税金、いくら使おうと自分の懐が痛むわけではないし。
批判が高まり、厚生労働省は来春までにオプジーボの薬価を最大25%引き下げる方針を決めました。それでも英国の3.3倍、英国が引き下げれば6.6倍です。日本人はそれで我慢するはず、とお役人はたかをくくっているのでしょう。オプジーボと同原理の抗がん剤キートルーダの薬価が近く決まります。従来ならオプジーボ並み超高価格になるはずですが、こんな状況でどうするか注目です。
保団連は薬価算定の議論の公開、欧米各国の薬価を参照するルール、オプジーボ価格の緊急引き下げなどを訴えています。当然の要求だと思います。