田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(173)外国人看護師らの医療・介護にも暗雲
介護職の不足がこのところ大きな話題になっています。仕事は山盛りで給料は少なく、疲労困憊してやめる人が後を絶たない状況です。何年か前には、インドネシアやフィリピンなどからの受け入れが解決策として脚光を浴びた半面で、移民増加を懸念する声もありました。ところが、ところがです。新聞のまとめ記事(9月18日『朝日新聞』)によるとかなり大きく当てが外れているようです。
経済連携協定(EPA)でインドネシアからの看護師、介護福祉士の受け入れが始まったのは2008年度からです。翌年はフィリピン、その後はベトナムも加わり、16年度までに看護師コース1118人、介護福祉士コース2777人の合わせて3895人が来日しました。研修や実務経験をしながら国家試験をめざし、合格すれば永住も可能です。しかし、これが実際には難しく、合格した看護師191人、介護福祉士437人に対し、不合格・年限切れで帰国したのはそれぞれ 532人でした。介護福祉士コースは合格者の1.2倍でしたが、看護師コースは2.8倍の狭き門でした。日本語での細かな医療・医学知識の習得はやはり限界があります。
それ以上に問題なのは、資格取得後に帰国したり、制度から離れる人がそれぞれ3割にものぼることです。記事では、合格以降は支援制度がなくなるための生活苦や仕事からの疲労、子育てとの両立困難などが原因と見ています。
患者からすると、外国人の看護師さんは珍しく、優しいし、違う発想や反応が楽しみです。しかし、病院が看護師に期待するのは患者の受けではなく、あうんの呼吸で医師や同僚らの要求を理解し、短時間でてきぱきと仕事をこなすことです。国の補助があればともかく、同じ資格、給料の扱いはできない、となるのでしょう。介護人員の慢性的不足の下では、介護福祉士も同様の条件です。
米国ではフィリピンからの看護師が活躍しています。介護分野でも同じと思います。違うのはおそらくは労働時間の質と量です。日本の長時間労働者は平均でも欧米の10%の2倍以上ですが、分野で見れば、医療や介護は長時間労働がむしろ常識になっています。フィリピンで日本人のように長時間働く趣味がある人がいるとはとても思えません。
病院や介護施設の経営者が「外国人看護師や介護福祉士は働かないからねえ」と嘆くかたわらで職員が相槌を打っている情景が目に浮かびます。