医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2016年9月5日

(170)台風の犠牲者を悼みます

 東北地方に直接上陸したのは初めてという台風10号の被害は予想以上でした。とくにびっくりしたのは、岩手県岩泉町の高齢者グループホームの件です。8月30日夜、川の増水で平屋建てのホーム建物が天井近くまで水没、9人が亡くなりました。同じ経営の介護施設が隣にあったのですから施設の判断のまずさは否定できません。
 こうした被害が起きると、マスコミはすぐに行政の対応を問題にします。今回も氾濫した川の周辺地区に「避難勧告」や「避難指示」が出ていなかったことがわかりました。過去の薬害事件などがそうですが、日本では何か問題が起きると、行政が一番の責任者であるような論調が少なくありません。行政は万能で、国民は従い、ただ守ってもらう存在のようです。
 その日の朝、町は全域に、勧告・指示に先立つ「避難準備情報」を出しました。ヘエーと思ったのは、この情報は時間がかかる高齢者や障害者らの避難開始のメドで、勧告時には避難完了が望ましいとの意味だとの記事です。グループホームの幹部はその意味は知らなかったと弁明していましたが、私も知りませんでした。テレビは情報が出た地区を報じましたが、見ていた限りでは意味の説明はありませんでした。テレビ局は果してその意味を知っていたのでしょうか。
 少なくとも関連施設には意味を徹底しておく必要があります。新規に事業を始めた施設はいつ知るのでしょうか。高齢者や障害者がいる家族も当てはまるのでしょうか。準備情報と勧告が関連するなら、勧告を出さないのはまずいのではないでしょうか。
 ところで避難勧告は広範囲に出ます。今回も市町村全域の計何万世帯に出ているところがいくつもありました。地形や風雨量、周辺設備などが大きく違うのに、町中同じ程度の危険なのでしょうか。そもそも全町民が避難だけの場所があるのでしょうか。
 情報を出す自治体も、特別な専門家がいるはずもなく、狭い地域の雨量や河川、崖、道路などの細かいデータがあるわけでもありません。気象台の情報と過去の経験から推測する、きわめて大雑把な内容です。地球温暖化の影響で気象は年々荒っぽくなっています。限られた地域の集中豪雨を、気象台や自治体がつかめるとは限りません。
 住民が命を守るには、大雑把な推測を参考にしながら、個々の地域の特徴や状況を加味し、自分たちで最終的に判断するしかありません。今回の台風はそのことを教えてくれています。

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