医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2016年7月19日

(163)週刊誌の医療記事のこと

 このところ、週刊誌で医療関係の記事が極端に増えています。6月に『週刊現代』が薬の使いすぎ、手術の危険を警告、『週刊ポスト』は歯科治療でした。今月になって『週刊文春』が『週刊現代』の書きすぎ部分を批判し始めました。私も何度か電話取材などを受け、一部の記事にはコメントとして掲載されました。
 『週刊現代』の当初のテーマは薬でした。薬といえば、私の一番の気がかりは精神病薬です。うつ病や統合失調症の薬は信じられないような使い方がなされています。診断するとすぐに薬を飲ませ、症状が改善しないとどんどん量を増やす。患者の多くは薬漬けになり、青年期に発病した統合失調症患者のその後は入退院のくり返しです。また、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬が発売されてから、うつ病患者が急増しました。製薬企業の売り込みと、医師の安易な処方が問題です。他の薬では、降圧剤や高齢者の精神安定剤などは副作用、コレステロール値が少し高いと処方される高脂血症薬の多くは不要、といったことなども話しました。
 記事には多くの医師が登場し、採用された私のコメントはほんの一部でした。読者の反応がよかったようで、それから毎号が医療記事特集で、テーマも腹腔鏡手術からがん手術などに広がりました。インパクトの強さからか、だんだんと「薬や手術は危険」という方向が強まりました。
 病気を改善するはずの薬や手術には、副作用や失敗などマイナスも伴います。たとえば腹腔鏡手術は「患者に優しく、医師に厳しい」手術といわれます。小さな傷で患者の回復を早めるのが最大の目的の手術なので、死亡するのは論外です。そのために医師は高い技術を求められます。しかし、一般的な手術では、症状の程度、患者の体質、医師の技術の組み合わせで、万全を尽くしても治らない、助からないこともあり得ます。記者には何度も説明するのですが、記事では省略されてしまいます。
 週刊誌の医療記事が医療不信を広げる、との批判も耳にします。しかし、一方で、日本人患者は医師の言葉や、薬、手術などを信じすぎているのも事実です。両方がうまくバランスすればいい、と思うのですが。

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