田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(161)どうする生活保護の医療費扶助
生活保護を受けると医療費の自己負担がゼロになります。これを悪用し、超高額薬を転売していたという事件が明るみに出ました。予想されたことともいえますが、超高額薬が増えてくると放置できなくなる問題ともいえます。
警視庁は6月下旬、3人を詐欺の疑いで逮捕しました。東京都町田市の48歳男性はC型肝炎の感染者で、生活保護を受けていました。C型肝炎は近年、ウイルスを完全に殺せる薬が登場、保険の適用になりました。ただし、1錠6万円、治るまでの12週間分の保険薬価が 500万円を超す超高額薬です。男性は病院から無料で薬を入手すると、飲まずにすぐに転売し、これを買った仲間2人も逮捕されました。
C型肝炎はいずれ肝がんに進みますが、ある段階まではそうたいした症状があるわけではありません。長生きよりは目先の利益、というわけです。がんの分子標的薬など超高額薬が次々に出てきているだけに類似の犯罪が激増しかねません。100%効くわけではない抗がん剤ですから、患者本人がたまたま効かない患者だったと考えれば、同じようなことを考える可能性があります。
買った仲間の狙いは明らかに、利益を上乗せしてのさらなる転売です。とはいえ、超高額薬といえども保険適用ですから、転売先はおそらくは保険外の人でしょうか。たとえば中国などの外国人金持ちを的にしたルートがすでにできているかも知れません。事件の続報に関心があります。
生活保護費3.7兆円の半分は実は医療費が占めており、これまでは生活保護者の受診乱用が問題視されてきました。習慣性のある精神病薬や睡眠薬などが大量に処方され、売られていた事件があちこちで起きています。病院も利益を得ているケースが多く、半ば承知のうえ、と見られてきました。今回は病院は善意だったようですが、病院がグルになって偽の肝炎患者を仕立てることも考えられないわけではありません。病院の倫理観を高め、医療費の適切な使い方にも注意を払ってもらう。そのためには、患者がきちんと薬を飲んでいるかどうかのチェックなども課題になりそうです。