田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(152)治療しながら働く、は理想だけれど
患者が働きながら治療を続けられるように職場環境を変えようとのガイドラインがこの2月、厚生労働省から発表されました。「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」です。がん、脳卒中、心臓病、糖尿病、肝炎などはかつては「不治の病」と考えられていました。しかし、医療技術の進歩で、外来治療で症状の改善や維持が可能になってきています。しかし、受診や合併症、体調不調などで、休みや早退せざるを得ないこともあります。これまでだと上司から「戦力外」判定され、結局は退職に追い込まれるのが普通でした。
これを改善するには、職場の理解を深め、患者の考え方を変える必要があります。ガイドラインは研修の実施、相談窓口の設置、治療の便宜のための時差出勤制度や時間単位の休暇制度などを提言しています。また、症状によっては従来の仕事が無理、と考えられる場合もあります。その時も、管理者が独断ではなく、患者や主治医、産業医の意向を踏まえ、適切に判断するよう求めています。病気のうえ失職すると二重のダメージですから、こうしたガイドラインが常識になれば患者は助かります。
私が胃の全摘手術を受けたのは退職後でしたが、もし、会社勤務の時だったら、と考えてみました。食事に手間取り、量も食べられず、疲れ気味です。新聞社は結構、夜が遅いし、ハードな面があります。仲間との連携仕事は難しく、何より、今までの自分の仕事の半分もこなせないな、といった感じです。上司が何も言わなくても、おそらく、自分で嫌になって退職を選んだような気がします。
会議や手作業が多い職場、分担制職場では、不在時間の多い患者は確実に仲間の足を引っ張ります。余程の厚顔でないと勝手な休みは取りにくい。そのうえ、日本は長時間労働すぎます。労働時間が短くなり、長期休暇が簡単に取れる社会にならなければ、ガイドラインの実現は夢のまた夢、といった気がします。いや、賢いお役人がいて、実はそれを目的にした一歩がこのガイドラインなのかも。