田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(151)高額医薬品と医療保険制度
4月14日夜と16日未明、熊本県周辺を襲った直下型地震には驚きました。次々にテレビ画面に映る崩壊した家屋は衝撃的です。活断層地帯とはいえ、熊本は地震と関連づけて論じられたという記憶がありません。それにしても、避難所で毛布にくるまる人たちの様子はかわいそうです。そのうえ、新たに何万人もが、避難勧告を受けています。みんなを収容できる施設があるのでしょうか。
先日、久しぶりに研究会で講演を頼まれました。テーマは私が最近、一番気にしている「高額医薬品」や「医薬品の過剰使用」問題ですが、実は研究会の会員は日本の大手製薬企業の方々ばかりです。緊張しますが、業界ぐるみで真剣に考えるべき時期と思い、発言しました。
昨年7月の週刊誌『東洋経済』は「クスリ最前線」と題する特集を組み、高額医薬品の代表としてC型肝炎薬「ハーボニー」と、がん免疫薬「オプジーボ」を取り上げました。「ハーボニー」の保険薬価は560万円、皮膚がんで認可されたオプジーボは、昨年、肺がんに適用拡大になりましたが、年間1人分が3000万円ともいわれています。
「ハーボニー」は12週間の飲み薬ですが、私が取材した専門医は「注射薬のインターフェロンが要らず、しかも治る。その後の肝硬変、肝がん治療費が不要になるので、決して高いとはいえない」と、患者に勧めています。一方、「オプジーボ」について肺がんの専門医は「治る率は低く、医療費のむだ。原理的には他のがんにもある程度有効なので、医療費の崩壊につながる」と、批判的でした。医師がこぞって使えば肺がんだけで2兆円近くになる、といわれています。効かない割に高いのが抗がん剤です。同用途の薬と比較して薬価を決める今のやり方では、これから出る多少とも効く薬はべらぼうな高額になる可能性があります。化学合成の薬の材料費は微々たる額のはずです。
日本の皆保険制度は、中身に問題はあっても、国民には不可欠の制度です。制度として出費できる費用は毎年、何千億円単位で増え、その増加額の半分は製薬企業の受け取る薬価分です。高額医薬品はそれを一挙に兆単位に押し上げます。この分では、数年先には制度の崩壊が現実味を帯びてきそうです。
医療保険制度で最大の利益を受けるべきは患者です。医療関係者も企業もそれを忘れてはなりません。