医療ジャーナリスト 田辺功

メニューボタン

田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2016年2月29日

(144)安易な緩和には副作用がつきもの

 今年になって一番の衝撃だったのは、実は長野県の軽井沢町で起きたスキーバス転落事故でした。運転手2人と、大学生13人が亡くなりました。若い人たちの突然の死は本当に悲惨で、心から同情します。
 事故の原因は不慣れな運転手の暴走のようです。そしてその大きな背景として、バス会社が乱立し競争が激化、ツアー企画会社が値引きを強要、安い料金での運行からくる無理な運転、いい加減な運行管理、などの重なりが事故につながっていたことが浮き彫りになっています。国土交通省は遅まきながら対策として、バス運行会社の貸し切りバス事業認可の取り消しや、運転手採用時の講習義務付けなどを決めました。
 2000年の道路運送法の改正で、貸し切りバス会社が免許制から一定条件を満たせば許可されるよう規制緩和されました。その結果、零細業者が急増し、7割はバス10台以下の会社になり、競争激化の悪循環で安全がどんどん失われていったわけです。
 近年、政府は自由競争で質の低い業者が淘汰され、全体が向上するとして規制緩和策を進めています。しかし、多くの分野では逆効果で、手直しが必要になっています。あるいは政府は最初からわかっていながら、特定業界、たとえば企画会社の利益誘導のために緩和したのかも知れません。
 派遣業の認可は労働者の多重ピンハネを招き、若者の生活不安を生みました。緩和策はさらに若者の貧困を増やします。介護施設の規制緩和は土木業などの異業種からの参入ラッシュを招き、利益優先や虐待事件が目立っています。株式会社の資本金の大幅引き下げで詐欺会社が急増しました。
 基本的には一律が問題なのでしょう。若し、人口の少ない地方にも貸し切りバス会社がどうしても必要なら、個別の例外として認め、理由を明示すればよい、と思います。こっそり例外とすると、国会議員が圧力をかけてきます。
 厚生労働省は外国人介護福祉士を訪問介護にも広げる方針との報道がありました。介護現場の人手不足対策とのことですが、1人で短時間訪問する業務に、少ない外国人を回す必要性に疑問を感じます。時には日本人でも意思の通じにくい高齢者に、限られた日本語のやり取りでできるでしょうか。これも利益優先の臭いがします。

トップへ戻る