田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(139)髄液もれ治療の保険導入
むち打ち症の本当の原因といわれている髄液もれの治療法が 4月から保険導入されることが 1月20日の中央社会保険医療協議会 (中医協) で決まりました。一部の医師と患者団体の運動、それを支援するマスコミ報道が実った珍しいケースです。
脳を包んでいる硬膜から髄液がもれる病気の正式病名は脳脊髄液減少症。きっかけは交通事故のむち打ち症が代表的ですが、スキーなどでのスポーツ外傷、転倒や尻もち、出産などでも起きることがわかってきました。激しい頭痛や吐き気、疲労感、難聴、めまい、手足のしびれなどの症状は、立ったり座ったりしている時に強く、横になっているとおさまります。MRI(磁気共鳴断層撮影)やX線検査では明らかな変化がないため、慢性疲労症候群と診断されたり、単なる「なまけ病」と見なされたりします。
この病気に気づいた国際医療福祉大学熱海病院の脳神経外科医、篠永正道さんは、もれている場所に本人の血液を注射し、固まらせて穴を塞ぐ「ブラッドパッチ」療法が有効なことも報告しました。保険導入されるのはこの治療法です。
日本の医療界はとても特殊な世界です。権威者でない普通の医師が病気の原因や治療法を見つけ、学会で報告しても、専門家は「データが少ない」「理論的でない」などと難くせをつけ、たいてい否定します。また、本当かも知れないと追試する医師もほとんどいません。もともと封建的な社会なので、上が認めない限り、医師は動かないのです。
脳脊髄液減少症もそうでした。ところが、交通事故の後、ずっと不調が続いたむち打ち症患者が何人もこの治療で治りました。そうした人たちが2002年、患者会「脳脊髄液減少症患者・家族支援協会」を結成し、10年以上も病気の啓発や、 1回30万円前後かかる治療費の保険採用を働きかけ、『毎日新聞』なども熱心に応援しました。日本脳神経外科学会で関心が高まり、研究班を組織し、06年以降、約40病院で先進医療に採用されるまでにはなってきました。
保険に認められたとはいえ、診断、治療できる医師はまだ少ないのが現実です。技術をどう広げ、普及させるかが次の課題でしょう。