田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(135)BSE発生の教訓
「BSE問題の経緯と教訓」と題するパネルディスカッションが12月14日に東京で開かれました。公益財団法人「食の安全・安心財団」の主催で、国会議員、業界と消費者団体の幹部、新聞記者、専門家、食品安全委員会専門委員など8人が報告しました。
BSE (牛海綿状脳症) とは1986年、英国で発生した牛の病気で、96年、食べた人間にも脳の病気 (クロイツフェルド・ヤコブ病) が出るとわかり、世界的に大騒ぎとなりました。日本の最大の対策は「全頭検査」で感染した牛を排除することでしたが、実は検査は確実でないため、日本以外では行われませんでした。食品安全委員会の参考人でもあった財団理事長の唐木英明・東大名誉教授は、なぜ多額の費用をかけ、科学的根拠に乏しい全頭検査が行われ、今も多くの国民が信じているのか、検証しようと企画したそうです。
BSEの原因は異常プリオンという感染性たんぱく質で、BSE牛の捨てる部分を利用した肉骨粉を牛の飼料に使ったことから広がりました。英国は88年に肉骨粉を禁止、96年に世界保健機関(WHO)が各国に禁止を勧告しましたが、日本の農水省は行政指導だけで、01年 9月、BSE牛第1号が出るまで楽観的でした。
英国の状況もほとんど伝わっていませんでした。「特派員さえBSEに関心が乏しかった」(記者)、「日本では起きないと思っていた」(議員)、「農水省も起きないと断言していた」(消費者団体)。
BSE牛が出て一変、国民の不安が高まります。精度から若い牛は見逃しが多いため、英国などは30カ月以上の牛だけを検査していました。農水、厚労省は承知でしたが、自民党内で全頭検査論が起きると、消費者団体、業界も賛成しました。「パニックを鎮めるには検査しかなかった」 (業界) のはいいとして、政府は「検査でシロしか食卓に出さない世界一の安全対策」と誇張して説明、マスコミもそのまま報道しました。「検査に見逃しがあるなんて知らなかった」 (消費者) 。
専門家ではごく一部しか支持しなかった全頭検査でしたが、マスコミの多くは支持しました。また、もともと牛肉を食べて病気になる確率は1億人の日本人で1人以下、といった推計もほとんど報道されませんでした。科学的な事実よりも過大な危険性予測、感情的な話の方がインパクトが強く、どんな問題でも報道はその方向に流れがちです。最も反省すべきは私たちマスコミ関係者だ、と強く感じさせられました。