田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(132)「共に生きる」ミッションに感動
11月28日の土曜日午後、私は東京・秋葉原の三井記念病院を訪れました。親しくさせていただいている高本真一院長が病院内で講演すると聞いたからです。高本さんはこの夏、著書『患者さんに伝えたい医師の本心』(新潮新書)を出版されました。私がとても感銘を受けたと葉書を出したところ、返事に病院の案内が入っていました。
まだ新築の感がある外来棟の会場には聴衆がいっぱいでした。高本さんはいつものニコニコ顔、やさしい声です。東京大学医学部では勉強よりもボート部で、三井記念病院で外科研修後、留学した米国マサチュセッツ総合病院で心臓外科を選んだ、など自己紹介がありました。
帰国して高本さんは埼玉医大の心臓血管外科に移り、必死で手術の腕を磨きました。高本さんは元々、思った通りを発言するほうでした。自信もあったのでしょうが、医局の運営がおかしいと指摘したところ、すぐ、当時は心臓外科もない公立昭和病院に左遷されました。暇な時間、患者の話を聞くうちにやる気を取り戻し、心臓外科を開設できました。うまくいった手術で亡くなる患者、ミスをしたのに回復した患者があることから、高本さんは、治すのは患者の力で、医師はそれを助ける役、と達観します。それからは何よりも患者さんに役立つ医療・臨床研究をめざしました。
意外なことに高本さんは東大胸部外科教授に選ばれました。退官し、09年から三井記念病院院長に就任してから強調したのは組織のミッション (使命) です。高本さんは病院の理念に「患者とともに生きる医療」を選び、職員に求めました。
高本さんは東大教授時代に奥さんを乳がんで亡くしています。手術後、何年も経って再発、転移し、最後は家族ぐるみの在宅医療で看取りました。専門外の病気なので、ふつうの患者家族と同じ体験でした。「医師にずっとそばにいて欲しい」と思ったそうです。その気持ちが「患者とともに生きる医療」になったのではないでしょうか。
どんな仕事にも共通しますが、「何のためにするのか」がとても重要です。とりわけ医療は…と、高本さんの話から改めて感じました。