医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2015年11月9日

(129)厚生労働省の汚職、本当に別格ですか

 世の中にはしばしば、理解できないことがあります。厚生労働省のマイナンバー制度絡みの汚職事件です。いえ、権力があるところに汚職があること自体には何の不思議もないのですが、信じられなかったのは汚職の当事者となったお役人のキャラクターです。「別格のノンキャリア」って、どういうことだったのでしょうか。
 逮捕時の報道によると、45歳のこのお役人は医療情報の専門家として知られ、厚生労働省職員のまま 3つの国立大学の客員准教授や非常勤講師を務めていました。派手なカラーシャツ姿で、仲間うちでは「厚労省の赤シャツ」と呼ばれ、ぞんざいな物言いで、チンピラ風だったそうです。しかも、来るのは週の半分以下。それなのに出勤簿ではちゃんと毎日勤務したことになっていたというから驚きです。
 外部での講演をこなし、自由気ままな勤務でした。これで身分や給与も安定した公務員ですから、だれでもなりたがるはずです。
 いくら特別な能力があるから、といっても、形式にこだわる固い役所がこうした言動を認めていたのはどう考えても不思議です。本当は、自分たちとは違う異端者を認めない組織のはずです。かつて『お役所の掟』という本で、政策を批判した旧厚生省の宮本政於氏が徹底した村八分にあい、急死されたのを思い出します。
 ひょっとすると、次官や局長連中が全部責任を取らされるような巨大な不正が厚生労働省にあり、彼がその証拠を持ち、脅迫していたのではないでしょうか。いや、ひょっとすると、力ある役人はみな同類だった可能性もあります。次官も局長も週の半分も出てこず、秘書が出勤のランプをつけ、面会客には「多忙ですから」と会わせないだけかも知れません。もちろん出勤簿は毎日勤務になっています。そうして製薬企業の幹部などと楽しく飲み歩いている光景が浮かびます。
 健康保険制度や医療分野は何十年も前から問題が山積みです。解決策が提案されても、日本医師会が反対だから、政治家の理解が得られないから、検討するための時間がないとかで、厚生労働省は先送り政策ばかりでした。なるほど、お役人は仕事をせずに給料をもらえばそれでよかったんだ、と考えると初めてよく理解できますが。

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