田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(128)育ってほしい、医療事故調査制度
医療事故の原因究明と再発の防止を目標に掲げた国の医療事故調査制度が今月スタートしました。どのように育っていくのか、気になります。
病院や医師にとって「予期しない死亡、死産」があった時、医療機関や助産所の長は、「医療事故調査・支援センター」に届け出が義務づけられました。さらに院内調査をし、結果を遺族およびセンターに報告します。遺族が納得できない場合はセンターに依頼し、独自調査が行われ、遺族と医療機関に報告します。
従来、こうした場合は、遺族が刑事告発し警察が乗り出すか、遺族が賠償請求の民事訴訟を起こすか、でした。警察や裁判所は多くは理解できずに無視し、まれには医療界が驚くような事件に発展させます。一方、遺族側が事故を証明する必要のある民事訴訟は狭い門でした。どちらにせよ裁判は勝敗のかかった対決であり、真実の解明や再発防止につながりません。その点から、制度は前進を期待させます。
主に遺族側ですが、懸念はあります。「予期しない死亡」の判断がまずは医療機関側に任されている点です。どんな医療もある確率で危険を伴いますが、患者側はそこまでは思っていません。調査や説明は病院にとって余分な面倒事ですから、それを減らすため、従来の何倍も検査や手術の「予期できる」危険性が強調される可能性もあります。どんな事故も病院にとって想定外、不名誉です。表ざたにしたくないし、同僚をかばいたい。せめて院内調査で収めようとの手抜き調査が横行することも考えられます。一生意識不明や寝たきり患者が対象外なのもかわいそうです。
医療機関側に求められるのは目的、目標です。「何のための調査制度か」、さらにはその前に「何のために医療をするのか」です。ココ話123 で取り上げた造影剤事故は何度も起きています。未熟な手術、冒険的手術の犠牲者も絶えません。
私は何もかも病院任せの厚生労働省がひどいと思っています。保険医療制度の主宰者が医療界に丸投げをしているだけでは、今回の制度が育ち、成果を上げるのは難しいでしょう。事故の原因が人手不足なら医師や看護師の増員を、技術不足なら技術向上策を、不十分な機材ならその配備をせずに問題が解決するはずがないのです。