田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(126)落ち続ける企業倫理
先週から連日、横浜市の傾斜マンションが大きな話題になっています。それが大手の三井不動産レジデンシャルが売り出したマンション、というから驚きです。前後して、大手タイヤメーカーの東洋ゴム工業の、鉄道車両や船に使われている防振ゴム製品の性能偽装が発覚しました。ドイツのフォルクスワーゲンの排ガス不正プログラム事件を笑っていたら、どうしてどうして日本も負けてはいません。融通の利かないクソ真面目な日本人、はどこへ行ってしまったのでしょうか。
傾斜マンションの実態は住民への説明会で少しずつ明らかになりました。4棟の建物の隣接する2棟で、同じ高さで接していた手すりが 2センチもずれていると、昨年11月に住民が指摘したところ、会社は「東日本大震災の影響」と弁解しました。住民は納得せず、会社はついに傾いた棟の杭の一部が地盤に届いていなかったことを認めました。
住民はたいしたものです。かなりの専門知識を持つ方いたのでしょう。会社が「4棟全部の改修」を提示したとの報道に首を傾げたら、次の日には、ほかの2棟にも、杭工事を担当した旭化成建材責任者のデータ偽装が発覚しました。同社の施工約3000件の調査からいくつかの偽装が出たら騒ぎは間違いなく大拡大です。
東洋ゴム工業は3月、ビルの耐震強度を増すための免振ゴムの性能データを、50余棟で偽装して販売していたのが発覚しました。2007年には断熱パネルで同じように偽装が見つかり、今回が3度目の不祥事です。タイヤは大丈夫か、と誰もが思うはずです。
実は私が身近に感じている製薬企業にも問題がありました。逮捕者も出た13年からのノバルティス・ファーマの高血圧薬の臨床試験ごまかし事件のほか、今年には、武田薬品工業は高血圧薬の過剰広告で、ファイザーとノバルティスは薬の副作用報告の届けを怠ったとしてそれぞれ厚生労働省から改善命令を受けています。どれもが自社の薬をより多く売りたいとの思惑からの行き過ぎです。「患者を助ける薬」より「企業を助ける薬」が大事になっています。
企業の最大の目的は利益追求であるとはいわれますが、それには倫理や節度が不可欠とする昔の常識がもはや通じない、としたらとてもさびしいことです。