田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(125)大村先生のノーベル賞
10月5日からのノーベル賞週間。今年は医学生理学賞に北里大学の大村智先生、翌6日には東京大学の梶田隆章先生と、連続当選でした。何度か取材させていただいた大村さんの素敵な笑顔写真が連日、紙面を大きく飾り、本当によかったと思います。
日本はノーベル賞といえば、けた外れの大騒ぎです。新聞社科学部の80、90年代の最大の仕事は、夜中の外電一報でノーベル賞に日本人の名前があった時、朝刊でいかに業績紹介の記事をまとめるか、でした。戦後、自信を失っていた日本人を湯川秀樹博士のノーベル物理学賞が勇気づけた歴史から、日本人にとってノーベル賞は別格でした。
受賞者が多い米国では、教授会に数人は同席、という大学がいくつもあります。新聞のほとんども地元紙なので、西海岸の受賞者は東海岸の新聞には名前とタイトル程度の小さな記事しか載りません。しかし、日本国民の関心が強く、またノーベル財団が賞金額をぐんとアップし、近年は米国でもノーベル賞の価値が見直されてきたように思います。
大村さんはアフリカで多い寄生虫病オンコセルカ症の特効薬イベルメクチンの開発者です。「河川盲目症」という別名通り、失明する病気で、イベルメクチンは年間4万人を失明から救っています。
北里研究所にいた大村さんは米国メルク社と連携していました。大村さんが見つけた放線菌の分泌物質が寄生虫を殺す作用が強く、動物薬の売り上げトップ薬になりました。世界保健機関 (WHO)がオンコセルカ症の治療薬として注目すると、メルク社は人用に開発研究を進め、成功すると気前よく、WHOに無償で提供しました。
メルク社は大村さんにも多額の特許料を支払っています。苦労人の大村さんはそのお金を北里研究所に回し、整備し、関連病院を作り、故郷で美術館も開設しました。知れば知るほど立派で、感激します。
薬の開発は日本人の得意分野です。私が受賞候補と考えていたのはまずはコレステロールを下げるスタチン製剤の遠藤章さん、大村さん、そしてエイズ治療薬の満屋裕明さんでした。大村さんが先になったのは製薬企業の姿勢も影響したかも知れません。日本の三共の研究者だった遠藤さんが最初に青カビから見つけたスタチンの後継薬がいくつも世界中で売れていますが、一方では乱用が指摘されています。