医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2017年6月5日

(208)高齢者のがん治療指針づくり

 厚生労働省が高齢のがん患者を対象にしたがん治療指針作りをするようです。具体的には、がん研究の方向性を示す「がん対策すい進基本計画」に、抗がん剤の有効性を確認する大規模調査を盛り込む方針とのことです。
 薬の臨床試験は原則として壮年層、しかも他の病気のない患者が対象です。そこで有効とされ、認可されると、同じがんであれば高齢者に、そして、心臓や腎臓の悪い患者にも使われます。余病持ちの高齢者だと副作用は違ってきます。国際的な試験が増え、日本人にはやや多い量の薬が基準になり、さらに低栄養の日本の高齢者には多すぎる懸念もあります。抗がん剤が高額化しており、むだを省く必要もあります。調査の結果、患者にとってより効率的な使い方が見つかればとてもよいことです。
 ところで、気がかりなこともあります。近年はどんな病気でも学会主導で治療指針やガイドラインができており、多くの医師がそれにもとづいて治療を行っています。こと薬に関しては、ほとんどが認可通りの標準治療です。国の診療報酬算定などでも指針やガイドライン遵守が年々求められていく印象です。
 マウスやラット実験では 8割効く薬が、患者では 3割、などとはよくあることです。動物は遺伝的素質、体格、食べ物も、飼育環境も同じです。しかし、患者は遺伝的素質がまるっきり違い、肥満からやせ、食べ物の好みや習慣、生活環境も大きな差があります。これらが薬の分解、吸収、合成、反応などに影響するはずです。臨床試験では、薬が動物ほど効かないのは当然ですし、実際の患者ではさらに効果が落ちます。
 従って、医師は本来、もっと個々の患者を観察してもっと「裁量」し、患者の危険を減らし、よりよく治すべきではないでしょうか。私はその点では、15年に日本老年医学会が発表した「高齢者の薬物療法ガイドライン」は意義深いと思います。高齢者に対しては少量からの処方、とくに避けたい薬などの指摘があります。また、一部の専門医グループからは、抗がん剤やアルツハイマー薬などの減量処方がより有効と報告されています。

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