田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(193)介護の負担を激減させるアイデア
介護分野の人手不足が常態化しています。建物はできているのに職員が集まらずに開けない施設もあります。長時間労働や過酷な夜勤、汚れ仕事、それでいて賃金は他の職業より安いというのです。力仕事が多く、腰痛などの訴えも少なくありません。要するに介護は楽しい仕事ではないのです。
その最大の原因は、便の排せつとその処理、ではないでしょうか。車イスや歩行器の高齢者を1日何回もトイレに連れていきます。下着の上げ下げ、お尻をふく手助けが必要な場合が少なくありません。オムツにすると、臭うのでひんぱんに取り替える必要があります。そのたびにお尻をふきます。
1980年代に母親を介護した歯科医の金井純代さんは、介護の最大のネックは排せつ問題だと痛感しました。それから介護用トイレの研究にのめり込み、1993年、ベッドの真ん中で容器を上下する真空吸引式トイレ付きベッドを考案、会社を作って発売しました。真空吸引式とは飛行機のトイレが代表的です。しばらく経って知った私は、新聞にそのベッドの紹介記事を書きました。
その金井さんから「試行錯誤したけど、やっと決定的なものができました」と報告がありました。介護度が進み、寝たきりになるまで、自分で使えるトイレ付きベッドだということです。腰部のトイレ部分でベッドが分割できます。足が付く高さなので、洋式トイレのように使えます。洗浄シャワーがあり、便はバキュームタンクに収めます。金井さんの先のトイレが発売後、いくつかのメーカーが介護トイレを発売しています。金井さんは20年以上の先行経験から形や仕組みを工夫、臭いや漏れがほとんどないまでにしました。トイレ部分のフタを閉めると、普通のベッドに変わります。
「頭さえしっかりしていれば、寝たきりでも、自分で排せつでき、洗えます。手助けはタンクの中身を捨ててもらうぐらいで済み、介護される側のプライドは保たれ、する側の手数は格段に減ります」と金井さんは太鼓判を押しています。
価格は 120万円 (税別) 。家庭の介護力を助けたいという金井さんですが、私は施設にも役立つと思います。施設のベッドの何倍か高いのですが、手間が減ればかえって得になり、介護状況も一変するのではないでしょうか。