田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(190)偽高額薬が堂々と正規ルートに
C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造薬事件が大きな関心を呼んでいます。1月17日の厚生労働省発表によると、奈良県内の薬局チェーン店からボトル入りの偽造薬5個が見つかりました。1月9日に薬局から購入した患者から「錠剤の色が違う」と指摘があったのがきっかけです。
C型肝炎はウイルスが血液中で増殖、肝硬変や肝臓がんに進みます。ハーボニーはウイルスの遺伝子を切断する2種類の薬の配合剤です。従来は注射薬インターフェロンと併用する別の飲み薬で、治ゆ率も8割程度でしたが、ハーボニーは手軽な飲み薬で、ほぼ100%ウイルスを殺します。画期的な薬ですが、薬価は1錠5万5000円。1日1錠12週間(84日)ですから、1人分の薬代は462万円になります。
1月23日、厚労省は同じ偽造薬9びんが東京都内の卸売り業者から見つかったことを発表しました。ボトルは28錠入りで、154万円の薬価相当という高額です。
衝撃的なのは、偽造薬が堂々と処方薬の販売ルートに入り込んできたことで、厚労省の詳しい調査と厳格な対応が必要です。
薬は製薬企業から大規模な一次卸問屋である薬販売業者を経てやや中規模、専門的、ある地方の販売業者から薬局へと流れます。業者も薬局も免許がないと薬を販売することはできません。ところが、偽造薬は販売業者が安値につられて無免許者から購入したと考えられます。本物はだいだい色の菱形なのに、偽造薬は薄黄色の楕円形で、明らかに詐欺行為です。しかも、奈良県の薬局は、違いに気づかず、医師の処方箋に基づいて偽造薬を患者に売ってしまったのですから大恥です。
倒産病院の在庫処分や、病院や薬局職員の不正で、薬を業者に安売りし、業者は正式な販売ルートに乗せる、といった抜け道のあることは分かっていますが、今回の事件で、それが意外に広がっている可能性が浮かんできました。
詐欺師の対象になりやすい超高額薬が増えてきています。販売業者がきちんと襟を正さなければ大変なことになります。