医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2017年1月16日

(188)高齢でなくなるのはうれしいけど

 「高齢者は75歳以上にしよう」との提言にちょっぴり驚きました。日本老年学会と日本老年医学会が1月5日、提言として発表したものです。前期高齢者世代の私はこの提言に従えば「高齢者」じゃなくて、65歳から74歳の「准高齢者」になります。何となく若返った気分にもなります。
 国連統計などから高齢者は65歳以上とするのがほぼ世界共通の物差しですが、厳密には何歳からか、という定義はありません。平均寿命の延びもあり、元気な人が増えてきており、医師や研究者で構成する両学会のワーキンググループが日本人の高齢者の指標を検討してきました。
 「今年60のおじいさん」という歌の文句がありましたが、かつての60歳はよぼよぼのお年寄りでした。ところがいまは元気はつらつ、社会的な活動ができる人が多くなっています。実際、テレビの化粧広告では還暦女性の肌もつやつや。せいぜい40代ぐらいにしか見えません。
 60歳以上を対象に聞いた2014年の内閣府調査では、高齢者は「70歳以上」「75歳以上」がそれぞれ 3割、「80歳以上」が 2割弱でした。こうしたデータからグループは、75歳から89歳を高齢者、90歳以上を超高齢者とし、准高齢者は社会を支える現役に格下げをしました。
 趣旨は分かりますが、学会の提言というのは新発見した科学的な事実や対応が原則で、もともと厳密ではない話に割り込むのは違和感があります。ところで、現在の年金や介護保険は65歳からですが、政府は予算削減目的で支給年齢を遅らせたいと考えています。年金だけでは暮らせない貧困高齢者がいまでも少なくないのに、高齢者の開始を10年遅らせてよい、との提言です。同じことを政府の諮問会議が言えば「総理のお友だち」発言ですが、学会と名がつけば、たとえ科学的なデータがなくても客観的、科学的に受け止める国民が多いような気がします。
 日本の学会の幹部はほとんどが大学の有力教授たちで、さまざまな役職を通して政府とは親しい関係です。ひょっとすると政府の応援団としての活動かも知れませんね。

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