医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2015年8月24日

(118)危険性な病原体研究、ようやく可能に

 エボラ出血熱を起こすエボラウイルスなど危険性の高い病原体を扱える研究施設が、ようやく国内でも稼働できるメドがたちました。 8月初め、厚生労働大臣と東京都・武蔵村山市長が会談し、合意に達したというニュースが流れました。大変結構なことだとは思う一方で、何でこんなことが、といった気持ちにもなります。
 武蔵村山市には国立感染症研究所村山庁舎があります。安全のため、世界保健機関(WHO)は、病原体を危険性に応じて「BSL」(バイオセーフティレベル)1~4までランク付けし、扱うのはそれに対応する設備が整った施設に限定しています。
 最も高度なBSL4は実は1981年、今から34年も前に村山庁舎内に完成しました。しかし、病原体が外に漏れたら危険と、周囲の住民から反対運動が起き、政府は1ランク安全なウイルスまでを扱うBSL3施設とすることで妥協しました。このために、日本の研究者はエボラウイルスやラッサウイルスなどの診断法や治療法などを研究するには米国など海外の施設に行かねばなりませんでした。
 BSL4施設は以前は先進数カ国にしかなかったのですが、現在は欧米の大学、アジアでもインドや台湾、シンガポールなどにもあり、世界で41カ所にも増えました。それがない日本は感染症研究の先端から大きく取り残されてしまったのは明らかです。
 どこの国でもウイルスの漏れは不安です。そのために実験室は何重構造にもし、空気が外に漏れないよう内圧を低くし、実験はキャビネットで扱う、出入りも何段階にもするなど安全対策をしています。実際、これまで事故はありませんでした。
 中東呼吸器症候群(MERS)が韓国の病院で流行しました。病院は特別な感染症対策がないのに、常に未知の強烈ウイルスを持った患者が来る可能性があります。客観的にはBSL4より病院の方が危険性は高いのですが、住民は病院なら歓迎しそうです。政府や研究者はもっとていねいに説明すべきでした。
 ただし、最近の国立競技場問題などを知ると一言いいたくもなります。巨額の経費で作った施設が使えなくても、研究者でない自分たちはちっとも困らない。別の場所に作るという発想もないまま、様子を見ていたら34年間もたった、ということなのでしょう。だれにも責任がないのが不思議です。

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