田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(103)売り物にならない生体肝移植
技術的に問題のある医療がまたまた浮上しています。しかも、今回は外国からの患者さんがからんでおり、日本の医療の評判を落とさないかと心配になります。
最初に報道があったのは4月14日でした。昨年11月に開院したばかりの神戸国際フロンティアメディカルセンターで生体肝移植を受けた患者さん8人のうち4人が、手術後1カ月以内に死亡していたというのです。通常は1年生存率が8割といわれていますから、先の群馬大学病院と同様、問題を感じさせます。この病院は生体肝移植の専門病院と称しており、亡くなった4人のうち2人は「医療ツーリズム」のかけ声に乗って日本にきたインドネシアの患者さんでした。
専門医の学会である日本肝移植研究会が調査に乗り出しました。それによると、感染症で亡くなった2人や、提供者の肝臓が移植に不適切な脂肪肝だった1人など5人の手術前後の対応に明らかに問題があった、と指摘しています。
生体肝移植で肝臓の一部を提供するドナーはもともと健康人です。国際的に生体移植が低調なのは、健康なドナーの安全を配慮するためですが、8人のドナーの1人は重い合併症になっていました。
このセンターは神戸市の「医療産業都市構想」の中核で、医療ツーリズム実現のため、開設を急いだ経緯があるようです。しかし、世界から患者さんを集めるには、どこにもひけを取らない高い技術が不可欠です。たとえ、発展途上国相手としても、成功率がこれだけ低い医療は問題です。日本の医療の誤解を招くかも知れません。
田中院長は生体肝移植で日本学士院賞を受けており、この分野の大御所ですが、過去の名声だけで現実の医療がうまく行くとはいえません。しかも、移植は何人もの医療者の協力が不可欠な手術です。たしか、教授時代の京大病院でも感染症での死亡が続き、一時期、移植が中断したこともありました。
人を救えなければ、本物の医療とはいえません。急がば回れです。事故のくわしい状況を公表し、原因を分析、体制の再構築を急ぐ必要があると思います。