田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(78)ノーベル賞は最大のニュース
毎年10月はノーベル賞シーズンです。今年は例年にないほど盛り上がりました。
いつごろからか直前に今年の受賞者の予想記事が流れるようになりました。文学賞は数年来、村上春樹さんが最有力候補といわれ続け、昨年あたりから「今年は間違いない」との念押し記事も登場しています。そして、直前に急速に燃え広がった「憲法第9条を持つ日本人」平和賞説。
さてフタをあけると、最初の物理学賞が青色LEDの開発で、赤崎勇・名城大学教授ら日本人3人。これまでの物理学賞とはやや異質な実用研究ですが、日本全体が興奮しました。医学生理学賞も化学賞も常連候補があり、確度の高い文学賞、平和賞が加わると、ひょっとして今年は日本人ばかり?、という気にもさせられました。
私が第一線のころ、新聞社の科学部にとってノーベル賞は最大のニュースでした。1973年江崎玲於奈さん、81年福井謙一さん、87年利根川進さん。毎年受賞者が出る米国ではノーベル賞はさほど大きな記事ではありませんでしたが、何年に一度の日本は大騒ぎしました。おそらくは日本人の国民性もあったかも知れません。日本人の業績は国内では無視され、欧米で認められて初めて評価、の風潮です。ノーベル賞の対象になった研究は専門誌や学術誌止まりで、普通の新聞ではほとんど書かれたことがなく、研究者の名前も一般には知られていないのが普通でした。ノーベル賞が決まった途端、新聞は何ページも使って細かな話まで紹介し、テレビも喜びの表情を繰り返し放映します。一夜明けると、すべての国民が知る著名人に変身です。
しかし、ノーベル賞は必ずしも公正とはいえません。欧米の研究者は結構、選考委員に働きかけたりしているようです。1つの賞は3人限りの選考ですが、組み合わせが不適切との批判もしばしばありました。本当は3人目でもらえたはずの日本人研究者が何人かいたと思います。がんの寄生虫説のように研究評価そのものの間違い、佐藤栄作首相やオバマ米大統領など平和賞には理解しがたい選考が少なくありません。
それはそうと、2000年の白川秀樹さん以降は日本人の受賞者が急に増え、今回の14年まで、14人にもなりました。何人になったらノーベル賞は特別ではなくなるのかな、とふと考えてしまいます。