医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2014年9月22日

(75)期待大きいiPS細胞

  iPS細胞を使った再生医療が大きく報道されていることもあって、知人たちからiPS細胞のことをしばしば聞かれます。私は古巣の朝日新聞のことを聞かれるよりはずっと楽な気分で話せます。
 9月12日、理化学研究所チームは初めての臨床研究に着手したと発表しました。対象は目の病気・加齢黄斑変性の70代女性です。網膜の下にある色素上皮が傷つき、網膜の中心部の黄斑に異常が出て、ものがゆがんで見え、失明の危険があります。
 理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらは昨年11月からいろんな細胞になれる能力のあるiPS細胞作りを始めました。女性の皮膚細胞を採取し、何段階も経て、色素上皮細胞のシートができました。この日、神戸市の先端医療センター病院で、女性の目に植え込む手術が行われたわけです。臨床研究は全部で 6人を予定しています。iPS細胞からはがんができやすいともいわれ、最低 4年間は異常の有無を調べたり、効果を確認したりします。
 多くの病気は臓器の機能低下です。西洋医学の解決策は臓器移植。ところが、他人の臓器は拒絶反応が起きるので、免疫抑制剤などが必要です。由来が本人のものであるiPS細胞からの臓器はその心配がなく、脊髄損傷やパーキンソン病などの究極の解決策と期待されているわけです。とはいえ、iPS細胞からの臓器作りは時間やコストがかかります。神経などの働きも加わり、臓器の機能をそっくり再現できるか、も課題です。
 9月18日の新聞に、iPS細胞で薬の効果を確認したとのニュースも載りました。京大iPS研究所グループが、難病患者のiPS細胞を作って病気を再現し、効く薬を見つけたというのです。薬の開発はマウスなどから始まりますが、マウスの病気と人間の実際の病気は違うため、何年もかけて開発した薬が人間の病気には効かない、ということがよく起こります。iPS細胞は少なくとも本人の、おそらくは人間の病気を表現します。何万人、何十万人に使える薬ができれば、医療への貢献度はこちらのほうが勝ります。

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