田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(67) 感染症と報道
先週は、福岡市のホテルで開かれた日本感染症学会・日本化学療法学会の合同学会に招かれました。私の受け持ちは 6月18日午前、30分の教育講演で、テーマは「感染症と報道」でした。いただいた演題から、おそらく感染症の専門家である学会幹部は、メディアの報道に不満や不信があるのだろうと思い、できればそうした状況を少しでも改善することに役立ったらいいな、と考えました。
聴衆は医師、看護師、薬剤師、技師らのようですが、報道をそのまま受け止めている若い人も、おかしいと思っているベテランもいそうです。私の講演は報道がどのようにして行われ、何が問題か、でした。一般の人は、新聞やテレビの医療報道は、くわしい専門記者が書いていると思っていますが、実際はあまりくわしくない社会部や政治部、地方支局の若手記者が書いています。取材源は警察や保健所、県などの官庁や病院、医師、企業などです。
正確な報道はもともと非常に難しいことです。メディア側には権威重視、危険過大などのバイアスがかかりますが、取材源にも目的や方向にかなったバイアスがかかります。しかし、知識の乏しいメディア側は、どうしても取材源の意図のまま動くことになりがちです。新型インフルエンザでの国の過剰な対応、空港や機内の検疫、日本から台湾に帰国後SARSを発病した医師の数日前の立ち回り先、姫路城の消毒のニュースなどについて紹介しました。私が当時からおかしいと思っていたこれらも、結局は若い記者が国や自治体などの取材源にいわれた通りを書いたものでした。
メディアの役割は国民に正しい情報をわかりやすく伝えることです。それには取材源との協同作業がどうしても必要です。取材源である専門家のみなさん、正確な情報をぜひ、との私の気持ちはどの程度、伝わったでしょうか。