田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(64)医療の真実を指摘しても
日本医学ジャーナリスト協会 (水巻中正会長) の2014年度の通常総会が 5月26日に開かれました。この協会は新聞社やテレビ局のOBを中心に始まり、今は現役記者、雑誌、フリー記者、研究者、医師や看護師などの医療関係者、医療関連企業の広報担当者、学生など多彩な職種に広がっています。個人約 280人と30法人ですから、あまり大きな会ではありません。毎月、専門家を招いての講演会、年1 、2 回のシンポジウム、記事や書籍を対象にした協会賞の授賞などをしています。会長の水巻さんは元読売新聞の記者で、元朝日の私が副会長 ( 2人) になっています。
事務的な総会だけではもったいないので、今回は南和友先生に「日本の医療危機の真実」と題する特別講演をお願いしました。南さんは研修医をおえるとすぐにドイツにわたって心臓外科医の技術を習得、30年間、ドイツで名医として著名でした。心臓移植手術も多数を手がけ、日本の子どもたちを何人も引き受けました。懇願され2005年から日本大学教授として帰国、2010年からは群馬県渋川市の北関東循環器病院の院長を引き受けています。演題と同じタイトルの編著書があります。
南さんは日本の医療の問題をわかりやすく話してくださいました。たとえば、ドイツで心臓手術をする病院は限定されていて1 病院平均1400件なのに、日本は病院が多すぎ、平均70件。ドイツの専門医は500 例が最低条件なのに日本は50例。レベルの差が大きく、国際的には通用しないので、海外の患者を診療するメディカルツーリズムなんて無理。心臓外科や脳外科は医師が多すぎ、産婦人科は少ないなどの診療科による医師の偏在は、日本は自由に診療科を選べるから。実際は、都市だけでなく、大学病院には、あまり働かない医師がウロウロしているそうです。
こうしたことを南先生はすでに何冊かの本ではっきり書いています。私も取材して新聞にも書きました。しかし、救急のたらい回しが30年前から変わらないように、日本では問題点がわかっても、決して解決することがありません。医学ジャーナリストの役割は何だろうと考えてしまいます。