田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(61)認知症患者の電車事故
愛知県の91歳認知症の男性が2007年、徘徊中に電車にはねられました。JR東海が振り替え輸送費用を請求、名古屋高裁が先月、妻に約 360万円の支払いを命じたというニュースがありました。昨年 8月の名古屋地裁は約 720万円の賠償を命じており、減額はされたのですが、家族に重い責任を問うのはかなり酷だなと思います。
報道によれば、要介護の妻と長男の家族が常時介護していましたが、男性は妻がほんのちょっとまどろんだ隙に外に出ました。徘徊ぐせの患者を放り出しておいたというわけではなく、注意義務を怠ったとしても軽微です。また、本人も病気で、故意ではないし、何よりも命を失った犠牲者です。 2度も裁判官がなぜ、家族をわざわざ罰するような厳しい判決にしたのか不思議です。
家族の意欲を低下させ、在宅介護にもマイナスです。「認知症の人と家族の会」が声明するように、これでは家族は24時間目を離せず、患者を部屋に閉じ込めておくしかなくなります。道の真ん中に患者が飛び出してはねられても、賠償を請求されそうです。介護施設だって1日中、しっかり鍵をかけておく必要があります。
鉄道にからむ損害賠償では踏み切りでの衝突・脱線事故、酔ってホームからの転落などもあります。ささいな不注意からの事故、やむを得ない事故、体調不調などで巻き込まれた場合でも、しばしば賠償請求があります。自殺だと賠償は当然、といっても、うつ病で家族のことなど思い浮かばないこともあります。そういえば運転士の過失による事故は家族が賠償しているのでしょうか。
個人の責任にも、負担能力にも限界があります。事故を減らす社会的な努力と、万一の場合の支援システムが必要でしょう。鉄道界全体での保険、運賃に上乗せしての保険、さらには認知症患者家族向けの保険、あるいは国の介護保険制度の中での賠償保険も考えられそうです。