医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2014年2月10日

(48)アルツハイマー研究の告発

 国費を投入したアルツハイマー病研究プロジェクトでのデータ改ざんが問題になっています。そのうえ、内部告発をマアマアですまそうという国の体質が表ざたになりました。最近のニュースはどれもこれもごまかしばかりで、本当に情けなくなります。
 朝日新聞が最初に報じたのは今年1月10日付け朝刊でした。プロジェクトはアルツハイマー病の症状と脳の画像や血液との関係を調べて早期治療や新薬開発に役立てる目的だそうです。国が24億円、製薬企業各社が 9億円を出しています。
 関係者が昨年11月、改ざんがある、と厚生労働省にメール告発しました。しかし、同省はそれを真面目に受け止めず、無視したうえに、メールを研究班長の東大教授に転送しました。そのおかげで告発者がだれかが研究班にわかりました。それなのに、田村厚労相は会見で事務方をかばい、「告発とは受け止めていない」「東大の調査を見守る」などと発言したのですから信じられません。
 遺伝子が共通なマウス実験と違い、人間は症状も体質もバラバラで、だれでもわかるほど大きな差は出にくいものです。そこで何人かのデータを動かしたり、無視したりすれば、目的の結論に近づけることも可能です。昨年の高血圧薬ディオバン事件に続いて、日本の臨床研究の信頼性はさらに低下することは必至です。
 企業や行政機関の犯罪行為を内部通報した人を保護する公益通報者保護法が2006年から施行されています。この法律の範囲外だとしても、厚生労働省のメール転送は明らかにその精神に反しており、通報者を会社の裏切り者と断罪してきた昔の日本社会に戻すような動きともいえます。そういえば、昨年12月には国家機密を守る特定秘密保護法というのもできました。上の人間にとっては、都合の悪いことは知られないほうがハピィです。
 「厚労省の行動は公益通報者保護法の骨抜きを意図した高等戦術ではないか」とのうがった見方もあるようです。

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