田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(47)新型万能細胞への期待
簡単な刺激で、新型の万能細胞ができた、という1月30日の朝刊の記事を見て、本当に驚きました。しかも、iPS細胞と同様、日本人の仕事が核になっているというのだから素晴らしい話です。それがきっかけで、いろいろなことが頭をめぐります。
中心になったのは理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子さんという30歳女性というから、さらにびっくりです。マウスの脾臓から取り出したリンパ球を弱酸性液に25分浸すだけで、培養後、数日で万能細胞になったというのです。
iPS細胞は受精卵からできたES細胞にヒントを得て、その欠点を克服した万能細胞です。2012年のノーベル賞はiPS細胞の山中伸弥さんが受賞しました。山中さんが早く受賞できてよかったと思ったのは、技術には終わりがない。さらに簡便な万能細胞ができたらどうなるのかな、と思っていたからです。それが今回のSTAP細胞の予感だったかも知れません。
とはいえ、STAP細胞がすぐにヒト細胞で作れるかが気がかりです。ES細胞がマウスからヒトで成功するのに17年かかったのに、iPS細胞はたった1年でした。STAP細胞はどうかなと気になります。
iPS細胞は薬の開発には極めて有用ですが、特定の細胞をたくさん作って臨床に役立てるにはあまりにも高価です。その点、STAP細胞はかなり安くできそうです。また、STAP細胞にはiPS細胞で懸念されるがん化の恐れがなさそうで、2つの点では有利のようです。しかし、原理からいって、両細胞とも治せる病気は限られそうです。
ES細胞の臨床試験が始まったばかりの頃にiPS細胞が登場し、研究者の多くが乗り換えたためにES細胞はうやむやになりました。iPS細胞の臨床試験が終わらないうちにヒトSTAP細胞が出ると、同じことにならないとも限りません。
もう一つ、刺激での変化でできた万能細胞は別の細胞に分化後、意外な刺激で再変化しないだろうな、なんてことも考えます。