医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2023年7月10日

(505)疑わしきは罰せずでいいのでは

 国民の多くは警察や裁判は正しいと信じていると思います。日本はえん罪事件がとても多いのですが、それは極めてまれな例外的なケースとの認識なのでしょう。私は現役記者の時代から、本当は違うのではないか、と感じることが何度もありました。
 公安捜査員「捏造」証言との見出しの記事(『朝日新聞』 7月 1日) には驚きました。驚いたのは捏造があったことではなく、裁判で「事件は警察のでっち上げでは」と質問した弁護士に対し、警部補が「まあ、捏造ですね」と認めたことです。
 横浜市の会社社長ら幹部 3人が外国貿易法など違反容疑で2020年、警視庁公安部に逮捕されました。この会社の「噴霧乾燥機」が軍事転用が可能なのに国の許可なく輸出したとの容疑でしたが、経済産業省が定める規制要件に該当しない可能性があると分かり、東京地検は約 1年 4カ月後に起訴を取り下げました。証言は、会社側が国と東京都を訴えた損害賠償請求の裁判で出たものです。警部補は自分の業績を上げたい公安部幹部の意図を示唆しました。また、続報 (『朝日新聞』 7月 6日) では、経産省職員が警視庁に「その機器は規制対象外である可能性がある」と何度も伝えたことを証言しました。
 えん罪の多くは捜査する警察官が明白な証拠がないのに特定の個人を「犯人」と確信することから始まります。犯人逮捕は警察官の業績ですから厳しく追及し、証拠以上に重視される自白を求めます。つらさに耐えかねて一度自白すると、被告人が裁判で翻しても、司法仲間の検察官、裁判官に無視され、えん罪まで進むことが多いのです。
 えん罪と見られる死刑囚・袴田巌さんは裁判の再審が行われることになりました。証拠の衣類が捏造された可能性があると認めた東京高裁の裁判官は珍しく例外的な判断をしたことになります。ところが、検察官は再審でも有罪を立証しようとの方針、と言うからやはり驚きです。
 犯人との断定には明白な証拠が必要です。「疑わしきは罰せず」と言われながら、そうでないのが日本の現実ではないでしょうか。未解決事件も残念ですが、罪深いえん罪もなくさなくてはならないなと思っています。  

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