医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2023年5月1日

(495)遅れ過ぎている日本の妊娠中絶

 手術せずに妊娠中絶ができる飲み薬が近く承認されそうです。厚生労働省の専門家分科会が 4月21日、英国の製薬会社の申請を承認することを了承しました。いろいろな事情で妊娠を続けられない女性にとって歓迎すべき方向です。
 対象は妊娠早期の9週までの妊婦です。まず、妊娠を続けるのに必要な黄体ホルモンの働きを抑える錠剤を飲み、36時間から48時間後に、ほおの内側に子宮収縮剤を含み、30分かけて溶かして粘膜から吸収させるとの方法です。収縮で子宮の内容物を排出させます。結構面倒な感じですが、妊娠中絶手術に比べれは負担ははるかに軽減です。生理時並みの出血と、2、3 割には腹痛や嘔吐などの副作用がありますが、成功率は9割というから大変なものです。
 子宮外妊娠でないなどを確認する検査などが必要で産婦人科医の診察が必要です。まれには大量出血があることから、当面の間は入院可能な医療機関の外来や入院での処方という条件がつきそうです。
 この薬の使われ方からも日本の産婦人科医療の極端な遅れがうかがえます。1988年にフランスで認可されてから欧米各国に普及、今では世界90カ国で使われ、WHO(世界保健機関)は2005年、基本的に必要な「必須医薬品」に指定しています。
 妊娠中絶手術で収益を得ている日本の産婦人科医にとって中絶薬は困った問題です。おそらく多くの医師は妊婦に危険を過大に強調し、手術を勧めるのではないでしょうか。その中絶手術には子宮内容物を機械的に除去する「そうは (掻爬) 法」と「吸引法」があります。WHOの推奨もあり、世界的には負担が少ない吸引法が多いのに、日本の医師の大部分は昔からのそうは法を続けています。
 思い出すのは経口避妊薬ピルの認可です。長く「認可してないのは日本と北朝鮮だけ」と言われ、何度も認可寸前になりながらも有力政治家や産婦人科医の反対で延期され続けました。認可されたのは欧米から40年遅れの1999年でした。
 医療は患者のため、の原則が産婦人科にはないとしか思えません。

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