田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(469)抗血栓薬服用者は転倒に注意を
10月の「脳卒中月間」にちなみ、製薬企業が主催するメディアセミナーが10月6日、東京で開かれました。コロナ禍のせいで対面の会は久しぶりでしたが、講師の話を直接聴けたのが新鮮でうれしく感じました。「抗血栓薬服用中の患者さんに知っておいて欲しいこと」というテーマで2人の専門医、国立病院機構九州医療センターの矢坂正弘・臨床研究推進部長と国際医療福祉大学医学部の末廣栄一教授が話されました。
脳卒中はがん、心臓病、老衰に次ぐ4位ですが、後遺症が多く、重い要介護状態の原因の 1位で、認知症の原因の3 、4 割を占めています。脳の血管が詰まる脳梗塞(55%) 、血管が破れる脳出血 (31%) 、くも膜下出血 (11%) があります。矢坂さんは梗塞の原因の1つ「心房細動」の高齢者が増えていることを指摘されました。
心臓の心房と呼ばれる部分が不規則に震えると、血液の固まりの血栓ができて脳の血管を詰まらせる脳梗塞になります。脳梗塞の再発や血栓防止のために、血液をサラサラにする抗血栓薬が使われますが、一方でこの薬を飲んでいると、消化管で出血しやすいという特徴があります。
末廣さんの話の中心はこの抗血栓療法への適切な対応でした。高齢者は自宅で転倒や階段から落ちる事故が多いのですが、抗血栓療法を受けている人は軽く頭部を打っただけで脳出血を起こす率が高まり、重症化します。このため、転倒後は抗血栓薬を抑え、出血を少なくする中和療法が早急に必要です。ただし、抗血栓薬は何種類もあるので、患者によって有効な中和薬は違ってきます。
「抗血栓療法を受けている人は必ず、お薬手帳や服用カードの携帯を」と末廣さん。ある調査では緊急入院した患者が飲んでいる抗血栓薬が入院当日に分かったのはたった18%で、51%が翌日、残りは 2日後以降でした。飲んでいる薬を家族が知っていることも大切です。中和療法の開始が遅いと効果がないとの衝撃的な調査結果も示されました。
医療は進歩するほど複雑になっていく感じもあります。薬の名前は大切ですが、それと共に転倒防止策や注意も必要です。