医療ジャーナリスト 田辺功

メニューボタン

田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2022年5月23日

(451)こんなにひどかった知床の海

 ウクライナの戦況とともに目が離せなかったのが知床観光船の沈没でした。観光船「カズ・ワン」の遭難は 4月23日なのでもう1カ月。乗っていた26人のうち遺体が見つかったのは14人。国後島に流れ着いた2人が確認されてもまだ10人もが行方不明のままです。19日、20日には潜水士が120メートルもの深さに沈んでいる船に入りました。逃げ後れた何人かが残っていそうだと思っていたのに誰も見つからなかったのは意外でした。波の強さを改めて実感しました。
 国土交通省は事故を起こした会社「知床遊覧船」の事業認可を取り消す方針と伝えられています。観光船事業者は「安全管理規程」を作成し、国に届けるとともにそれを守る義務がありますが、同社が全く守っていなかったのは驚きです。
 観光船は通過地での時刻、天候などを連絡すべき運行管理者(社長)は事務所に不在でそんな場合の補助者もいませんでした。その記録は15日間も同じ数字でした。事務所のアンテナが壊れて受信できず、遭難場所では船長の携帯電話も通じず、乗客の電話で救助要請をしました。出航停止の基準の波高も超えていながら、社長と船長の「行けるだろう」の判断で出航しました。さらには当日の朝、船長の友人が天候に注意するよう話したこと、船長や社長の経験不足を指摘する報道もありました。
 知床遊覧船の社長は地元観光船業者 4社の協議会の会長でした。同社の管理規程無視に他の3社は気づいていなかったのでしょうか。国土交通省は書類を提出させるだけで、中身は見ないし、運用も事業者一任でした。全国の事業者の何割が規程を守っているのか知りたいものです。いくら規程を厳しくしても守らなければ同じことです。
 摂氏 2~3 度の低水温では救命胴衣は役立たなかった、との指摘もありました。いざという時に助からなくては設備を義務づける意味がありません。政府の好きな専門家会議では誰も気づかなかったのでしょうか。

トップへ戻る