田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(29)続・色覚異常の差別をなくす
何回か前の色覚異常の続きです。9月19日付け『朝日新聞』の1面に載った「色覚異常気づけず後悔」という記事にはびっくりしました。名古屋市の眼科医、高柳泰世さんらの国への働きかけで、学校での色覚検査は2003年度以降なくなりましたが、その意義が否定された感じです。
記事によると、眼科医の集まりである日本眼科医会は2010、11年度に診療所を訪れた色覚異常の941人に聞き取り調査をしました。中高生185人の45%が進学・就職のための健診や眼科受診時まで、本人、家族とも気づいていませんでした。一部は進路を断念したり、将来に不安を抱いたりしました。医会はそうしたことを避けるため、保護者の同意を得て、希望者に小中学校で検査をすべしとしています。
医会のホームページによると、論文は専門誌『日本の眼科』に掲載されていました。本人や保護者からの具体的な報告660件のうち162件は「とくになし」で、残る 498件は色を間違えた経験や、異常を指摘されて驚いた、などでした。
色覚異常の半数は自分も周囲も気づかず、仕事にも日常にも問題ありません。残る半数は色を間違えたり、見にくかったりしますが、色覚以外の経験や努力でほとんどがカバーできます。だから外国では色覚は重視していません。日本もようやく国の指導で学校や企業は色覚差別をなくしたはずですが、例外的な学校や職種がごくまれに残っています。調査での指摘はその例外か、今も差別をしているところかのどちらかです。
記事がおかしいと思うのは、差別を前提に、早く知って早く対応、の勧めです。そのために以前は、進路を無理やり断念させられた人が、何百倍、何千倍もいました。本人も気づかないのはほっておけばよく、色を間違える人には周囲が対応、見やすくなる配慮や手だてを考えるのがいまの時代です。
昔の記者はひねくれていて、まずは何でも疑ったものですが、最近はお役所や学会、団体などの話をうのみにした記事が目立ちます。ちなみに日本眼科医会の多数は研究優先なのか、色覚検査をなくすことにずっと反対でした。