田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(389)薬剤師はやはり医師に言いにくい
日本人は薬好き、薬の飲み過ぎ、保険で安く買えるからもらい過ぎ、医師も安易に出し過ぎ…など、私は新聞や雑誌で何回も書きました。何人かの記者は特定の薬を私よりもさらにしつこく書いたのも思い出します。今、似たような記事を目にすると、つい、何年たっても状況はあまり変わらないものだなあと感心したりします。
自宅に届いた「神奈川県保険医新聞」( 1月25日号) に「ポリファーマシー意識調査」が大きく掲載されていました。ポリファーマシーとは副作用や飲み間違いなど患者によくない多剤服用のことで、2019年12月、神奈川県保険医協会が会員の開業医と、県内の薬剤師を対象に調査しました。
一番驚いたのは日本老年学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』、厚労省の『高齢者の医薬品適正使用の指針』の項です。「活用している」と答えたのは両方とも医師が 4%、薬剤師 7%だけ。「読んだことがある」のも医師20%、薬剤師24~27%でした。ガイドラインは目前の患者に適切とは限りませんが、参考にはなるはずのものなのに、現実には無視されているわけです。
ポリファーマシーの原因は、医師は・患者の複数科受診 (82%) ・患者に複数症状 (66%) ・患者の要求 (44%) と患者側ですが、薬剤師は・複数科受診 (80%) ・要求 (60%) ・薬の副作用に医師が薬を処方 (59%) の順になっています。
処方箋を出す医師に減薬を提案したいと思ったことがあるか、と薬剤師に聞きました。「よく思う」(27 %) 「時々思う」 (65%) と 9割が思っていますが、実際に提案は「よく行う」(7%) で、「時々行う」 (40%) を加えても半数に届きませんでした。意見として「医師の受け方が様々で言い出しにくい」「検査値や病名が分からず、提案は難しい」などと書かれていました。
70%の医師は「ポリファーマシーにできる限り対応している」と答えています。原因は患者側、との考えには疑問もありますが、私が現役記者だった頃に比べると、医療界は少しはよくなっているのかも知れません。