医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年8月31日

(369)介護の責任を追及しすぎても…

 新型コロナ以外で最近、気になった医療・介護関連ニュースといえば、そう、長野県の老人ホームでのドーナツ事件がありました。 7月28日に東京高裁で控訴審の判決があり、一審で罰金刑を受けた准看護師が無罪となり、確定しました。
 2013年12月、長野県安曇野市の特別養護老人ホームで、85歳の女性がドーナツを食べた後に心肺停止状態になり、その後、亡くなりました。女性はその 6日前からおやつはドーナツなどの固形類からゼリー類に変更され、介護記録にもありましたが、介助を手伝った准看護師はそのことを知りませんでした。長野地検は女性がドーナツを喉につまらせての窒息死は注意義務違反だとして起訴、2019年 3月、長野地裁松本支部は罰金20万円の有罪を言い渡しました。
 この判決は介護関係者に大きな衝撃を与えました。半ば不可抗力的なできごとでも個人の責任が問われるとなると、たしかに介護現場は萎縮します。無罪を求める 70 万人もの署名が提出されたそうです。
 自宅で家族が介護していても、餅をつまらせたり、滑って転倒、階段から落ちる、入浴事故などは珍しくありません。ところが、これらが介護施設で起きれば家族は施設の責任を追及し、しばしば損害賠償を求める民事訴訟になります。メディアは遺族に同情的で、 100%の安全や完璧が当然のような主張を展開します。後から見れば、どんな事件や事故も防ぐ手段があり、しばしば見逃した現場の責任が問われます。厳しく責任を問うことで安全が高まるとの思いや主張はわかりますが、疑問も感じます。国の方針で低コスト運用になっている介護などはますます実施が困難になってしまいます。
 とくに刑事訴訟は暴行や虐待、あるいはよほど明白な重過失がある場合でしょう。女性は何日か前にはドーナツも食べており、餅ほど危険とは思えません。亡くなったのはドーナツのせいでなかった可能性もあります。それなのになぜ警察や検察が熱心だったのかが不思議です。

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