医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年4月20日

(351)アビガンが救世薬になって欲しいけど

 よく知っているお医者さんから電話がかかってきました。新型コロナウイルスへの対応の大変さ、です。薬がなくなってきた患者さんから連絡があると、他の患者さんと重ならないように診療所への来院時間を指示します。そのうえ、直接の診察はやめて、隣の部屋(現実にどんな構造かよく分かりませんが)から声をかけて聞き取り、薬を出しているそうです。「症状がとくになくても患者さんが新型コロナに感染していないとは言い切れません。感染していてもコロナ治療薬がないし、症状があればその治療薬を加えるぐらいしかできませんし。何より私と、うちの職員への感染が怖いですから」
 実は先生の電話の目的は、富士フィルム富山化学が開発したインフルエンザ薬「アビガン」でした。新型コロナの患者で極めて有効だったと中国の病院が論文を発表、3月と4月に安倍首相が有効性を強調、各国に提供を表明しました。
 先生は早速メーカーの担当者に「10人分くらい欲しい」と申し込み、「本社の指示でそれはできません」と断られたそうです。「外国へ提供するより、国内で試用すべきではないか」との不満がよく分かります。
 そんな要望が殺到していそうだし、開業医まではとても、というところでしょうが、藤田医科大学病院を中心とした臨床成績が昨日4月19日、日本感染症学会の緊急シンポジウムで報告されました。2週間後の段階で、軽症・中等症では9割、重症患者で6割に症状改善が見られたとのことです。少数患者に使った多数の医療機関の集計らしく、医師が違えば評価も変わります。期待感もあるでしょうが、それでも改善率の高さに驚きです。共通原因であるRNAウイルスの増殖を抑える効果が出ているのでしょう。
 珍しく幸運に恵まれている感じもあり、アビガンが首相らの思惑通り「日本生まれの救世薬」になってほしいものです。しかし、治療薬がなかなか難しいのも現実です。改善から完治まで行けるのかどうか、高齢者への副作用は大丈夫か、ウイルスは本当に変化しないのか、などが気になります。

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