田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(350)やり直し無罪よかったですが
新型コロナのかげに隠れた感じだった滋賀県・湖東記念病院の事件が今月になってようやく決着したのは朗報でした。2003年5月、人工呼吸器が外れて72歳の男性患者が亡くなっていた事件です。元看護助手の西山美香さん(40)が故意にチューブを外したとして翌年7月に逮捕され、最終的に西山さんは懲役12年の刑に服しました。服役中から無実を訴えていた西山さんにようやく再審が認められ、大津地裁は3月31日、「犯罪の証明がない」と無罪を言い渡したものです。
判決時に大西直樹裁判長が述べた「取り調べや証拠開示などが1つでも適切に行われていれば、逮捕・起訴はなかったかも知れません」「警察、検察、弁護士、すべての裁判官が今回の事件を人ごとに考えず、改善に結び付けてなくてはなりません」などの言葉が印象的でした。とはいえ、司法の改善なんて本当に期待できるのでしょうか。
西山さんの自白調書がねつ造でした。調べた警官に好意を抱き、喜ばせたかったというのです。そもそも1年以上も経ってわざわざ事件にしたのは、亡くなった患者が警察と特別親密だったとか、警察が病院と対決していたからでしょうか。
自然死の可能性もあるとした医師の鑑定書が警察でも検察でも無視されたようです。大津地裁の懲役判決後、西山さんの訴えは高裁、最高裁で認められずに確定、服役中の再審請求も地裁は棄却しました。2017年に大阪高裁が再審を認めると大阪高検は特別抗告、今度は最高裁がようやく再審を認めて今回につながったわけです。一連の流れからは非常に多くの裁判官が西山さんの訴えをうそだと思っていたことがわかります。1人でも多くの犯罪者を探し出し、厳罰に処することが司法の目的、本質なのでしょうか。
ねつ造警察官を始め、司法関係者は適切な取り調べや証拠開示をしなくても責任を問われないのですから気楽なものです。間違った逮捕やえん罪の補償も税金だし…。怖くて調べてはいないのですが、新聞は西山さんの事件をどう報じていたのでしょうね。