医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2019年7月2日

(311)自立支援歯科学を広げたい


 日本顎咬合学会が6月23日に東京で開かれました。患者のためによいことをしたいという気持ちが強くうかがわれる珍しい学会です。細かな技術的なことにはついて行けそうにないので、私は今年も公開フォーラムだけに参加しました。
 今回、印象に残ったのは「自立支援歯科学」という言葉です。高齢者や認知症患者をいかに介護するかが世の中の大きなテーマですが、この学会の医師、歯科医師や歯科衛生士の観点はちょっと違っています。
 病院あげてチ-ムで回復期からのリハビリに取り組む長崎リハビリテーション病院と錦海リハビリテーション病院(米子市)からの報告がありました。長崎病院理事長の桑原正紀医師(脳外科)は、食・呼吸・言葉につながる口の機能の重要性を繰り返し強調しました。1週間使わないと義歯は口に合わなくなり、寝たきり、低栄養、廃用症候群へとつながります。口のリハビリが最も重要だとのことです。錦海病院では言語聴覚士と歯科衛生士の連携で経管栄養患者を常食に戻しています。
 金隈病院(福岡市)の長田耕一郎・歯科医師は、義歯で噛めない患者の義歯を調整することで多くの患者が硬いものも噛めるようになると報告しました。
 この義歯の調整法「リマウント調整」は大分県で開業する河原英雄・歯科医師が開発、推奨しているものです。国際医療福祉大大学院の竹内孝仁教授(リハビリテーション医)も河原さんの義歯調整で、食事の回復から寝たきり脱出、歩行可能までリハビリが進んでいくことを実例を紹介しながら強調しました。日本で著名なリハビリ病院で6年も胃ろう・寝たきりだった患者が転院し、何カ月かで胃ろうが取れ、大好きな肉が食べられ、自宅に帰れたとの報告はまさに驚きでした。口のリハビリを軸に寝たきり患者や高齢者が「自立」できるように医科歯科が連携して支援していこう、との訴えです。
 患者にはもちろん、医師や歯科医師にとっても素敵なことではないでしょうか。でも、日本全体で見ると、徹底した口のリハビリを実践している病院はまだ一部にとどまっているようです。何とかしてそれを広げていかなければ、と思いました。

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