田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(263)昔懐かしの「裏口入学」
オウム真理教の教祖や幹部の死刑実施、西日本豪雨と大ニュースが続いて埋もれてしまいましたが、文部科学省の局長が子どもの入学の見返りに国の補助事業で私立大学を優遇したとの事件が発覚しました。たまたま、テレビから問い合わせの電話があり、ついつい「ああ『裏口入学』ね、昔は多かったし、今も結構あるようですよ」なんて説明し、昔のことをいろいろ思い出してしまいました。
東京地検特捜部が 7月 4日、佐野太・科学技術・学術政策局長を逮捕しました。東京医科大理事長らに頼まれ、同省の私立大学研究補助事業の応募を指導、代わりに息子の 1次試験の点数を加点し、合格させてもらったとの疑いです。地検は合格を賄賂と見なしたものです。
いくつものことが頭に浮かびます。地検が摘発したということなら、もっと大規模な汚職事件があり、本当の目的は東京医大の資料収集かも知れません。おそらくは反対派閥か何かの内部告発絡みだろうな、といった想像です。モリカケ事件で明らかになった日本の政治家や公務員の劣化ぶり。これも、同じ忖度事件なのでしょう。
政治家と同じで医師もかつては世襲中心でした。医師が人気職業になり、旧国立大医学部の入学が難しくなると、各県に新設医大ができました。病院一族が、遊び惚けてできの悪い息子らを何とか医者にしようとの狙いがありました。それでも難しくなると、大学や幹部への寄付金で合格を買う「裏口入学」が流行しました。
医学部に限らず、どんどん大学は増えました。そもそも若者がどんどん減っているのに地方の有力者と議員は大学を増やしました。推薦入学制度の採用で、裏口かどうかの判別が難しくなって、事件は沈静化したような気がします。勉強しない大学生が普通になり、全体のレベルも落ちました。もう20年ほど前か、雑誌に頼まれて、大学増を批判したことがあります。「今年の新入生は珍しくできがいい。ほぼ全員、九九ができる」という友人の大学教授の言葉を紹介しました。
私立医大の経営が難しくなり、安い給料で派遣職員並の大学教官が増えました。そうした大学を助けるために国は助成事業を考え、高等教育の無料化を計画しています。欧州のように国公立大の無償化は必要として、遊びレベルの私立大までは忖度のしすぎ、ではないでしょうか。