医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2018年4月10日

(250)弱体化したメディアがんばれ

 最近の報道には驚かされます。いや、その中身だけでなく、報道側の弱さ、というか自信のない様子、も含めてです。3月31日、厚生労働省の東京労働局長が記者会見の席で「なんなら、皆さんのところに行って是正勧告してあげてもいいんだけれど」と発言したとの話です。
 飲み会の席で働き方が問題になり、だれかが「僕も長時間労働で死にそう」と言い、同情した局長が発言したのなら昔からよくあったような気がします。しかし、前後のやり取りからはそうでなく、「ごちゃごちゃいうならあんたの会社も摘発しますよ」という、権力をちらつかせた脅しであるとしか受け取れません。
 現役で私が忙しくしていた1980年、90年代と比べると、メディアの力は信じられないくらい落ちています。あの頃は官僚が一番強く、ほぼ同格のメディアはたいていは官僚と協力関係にあり、官僚がまれに間違った時だけ強く出ます。議員など一般の政治家は官僚やメディアより格段に弱く、派閥の領袖クラスにならないと官僚やメディアを思い通りに動かすのは難しかったはずです。序列でいえば、特別な政治家、官僚・メディア、一般の政治家の順でした。メディアの利用価値は大きく、私たちもどう利用されるべきかを常に考えていた気がします。
 いまはどうでしょうか。省庁幹部の任命権を内閣が持ち、省庁での役職が増え、政治家の力が格段に強まりました。安倍首相の『朝日』攻撃でわかるように、内閣がメディアを敵視し、官僚も政治家も以前のようにはメディアに情報をリークしなくなりました。その結果、政府や官庁の言いなり記事がほとんどになり、官僚や政治家は内心ではメディアをばかにしているのではないでしょうか。日本の報道の自由度は 180カ国中72位との調査結果もありました。局長発言は、強い政治家、弱くなった官僚、もっと弱いメディアの現実を示しているようです。
 森友学園問題、財務省の文書改ざんスクープは、弱いメディアの逆襲で、何とか存在価値を示しました。苦しい状況のなかで頑張っている後輩たちには頭が下がります。

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