田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(219)モンブラン登頂30年
何年ぶり、あるいは十何年ぶりか、先週、岡山まで出かけてきました。講演を聴くのが目的でした。自ら体験中のがん患者業も結構大変だし、出費もかかるし、とあきらめかけたのですが、興味あることこそ一番大事なんだ、と思い直しました。講演会のタイトルは「ガン闘病者のモンブラン登山30周年記念講演会『手を尽くしたガン医療を目指して』」というものです。
若い人たちは初めて聞く話でしょうが、30年前の1987(昭和62)年8月、日本のがん患者たちがヨーロッパアルプスの最高峰モンブラン (4810メートル) に登頂しました。当時、私は大阪本社の編集委員になっていましたが、漢方薬の連載を始めていて、残念ながらこの取材にはタッチしていませんでした。
引率した医師が「すばるクリニック」 (倉敷市) 院長の伊丹仁朗さんです。がんの告知も例外的だった時代に、伊丹さんは、患者ががんに負けず、目標や生きがいを持って闘病生活をすべきと、すでに「生きがい療法」を提唱していました。目標達成感が得られると富士登山などをしたところ、患者の希望からモンブランに挑戦、となったのです。患者7人が参加し、3人が頂上に立ちました。ニュースは日本だけでなく世界中のがん患者や家族を驚かせ、勇気づけました。
2015年5月、2人とも講師で招かれた「丸山ワクチンとがんを考える会」で私は伊丹さんとゆっくりお話できました。伊丹さんはやせて、ひょうひょうとした感じ。有名になったのに地位も求めず、言いたいことを言い、信念に基づいた医療を貫く伊丹さんは私には医師の鑑と映ります。
8月20日の講演で伊丹さんは、全国のがん拠点病院で行われている「標準治療」は患者を助けるために手を尽くしきっていない、温熱療法や免疫増強剤、転移予防薬の使用、丸山ワクチン、食事療法などがほとんどの病院でなされていない、と批判しました。
伊丹さんは自称「新倉敷駅前のやぶ医者」です。「私はやぶのすき間から外をながめているだけだが、世の中には、遮られて全く先が見えていない土手医者が多い」とも。うーんその通り、と妙に納得してしまいます。